今月の詩特別号『地球母から子供たちへ』(October 2001)


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ふつうここは地球語を使う詩の実験的コーナーですが、9月11日の同時多発テロのショックの後、地球語的な考え方で、この詩を書かずにいられませんでした。みなさんからもこの件についての詩やご意見をお寄せください。
またこの時局にあたって、(グローバルに全体が動きながら平和が続くよう)祈りを込めた地球語の挨拶「こんにちは」にあたる次のシンボルをここであらためてご紹介します。お好みの色で塗って旗などによかったらお使いください。

  {33,35,40}

(33): 円・球、ここでは地球
(40): コマが回転して立っている形→バランス
(35): ずっとつづく;  {40,35}: 平和
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『地球母から子どもたちへ』


三日月刃を研ぐ音を子守唄に
月に育てられた子らよ
深い深い影のなかから凍った月を仰ぎながら育った子らよ
「アラー」と呼ぶ存在に、透明になるまで命研ぎ澄ます忠誠心をもち
母のぬくもりを記憶しない子らよ

月と星は、かつて砂漠の偉大な道しるべだった
焼き焦がす太陽よりもあなたたちの祖先にはやさしかった
けれど今あなたたちのいる岩屋根の上の月は凍てついている
あたたかさが今一番必要なのは、あなたの子供たちではないのかい?

おぼえていなくても、おもいだしてほしい
あなたたちもまた私の子、まぎれもなくこの私「地球」から生まれた
あなたたちは凍った月ばかり見て気づかないかもしれないが
私はいつもどの子も愛している
あなたの子どもたちを両手であたためてやりたい

同じ私から生まれた兄や家族を呪い
ふいに襲って地獄をもたらし、母を傷つけることが
あなたたちの「アラー」の意志だというのかい?
だとすれば、そしてあなたたちがいうように「アラー」がこの世で唯一の神なら
兄たちもまたその「神」の原理によって
あなたたちを打ちのめさねばならない・・
終末を急ぐのが「アラー」の意志と、心底あなたたちは信じるのかい?

あたたかい光あび、影を知ることもなく育った兄たちよ
いくら非道とはいえ
怒りにまかせ、抗弁を聞くこともなく
ありあまる力の拳を振りあげるのが、おおきな兄のすることなのかい?
力にひるむ弟たちではない
ほんとうに弟をいさめたいなら、
子孫に狂気の地獄をくりかえさせたくないなら、
弟たちの心をわかろうと努力すべきではないのかい?
いったい誰が、彼らを影に押しやり、
そんなふうに育てたのか反省しなくてもいいのかい?

コーランのゆりかごに詰められ、いっしょに体ゆすって育った弟たち
彼らもまた、他のイスラム教徒と同様に
毎日5回メッカに祈り
ラマダン(第9)の月には日の出から日没まで断食しながら
飢えをおもいやり、私欲にうち克とうとがんばってきた

兄たちよ、メッカ・メジナは彼らにとっての心の原点
私欲のためにそこを土足で汚さなかったかい?
陽光の恵みを受けて食べられることを当然とし
感謝を忘れ、分かち合う喜びを忘れてきはしなかったかい?

兄弟たち、母にとってはどちらも大切な子らよ
あなたたちの「神」がほんとうに唯一絶対の神であるなら
どちらも同じ存在のはずではないのかい?
互いに背を向けないで、ともに源に目を向けることはかなわないのかい?

母はこれまで、30数億年かけていのち育んできた
目に見えない微生物から虫や鳥や鯨やあなたたち
数え切れない種類の能力やうつくしさがそろい
あなたたちのあいだにもさまざまな姿や歌や思考がそろい
これからそれらの調和を楽しみたいと待ちかまえていた・・

あなたたちの「神」はどちらも慈悲深く寛大で
真に悔い改めるなら赦すというではないか
母である私自身不完全で、試行錯誤の46億年だった
誤っては赦し、そのたびに新しい調和を見出し
その結果いのちたちが進化した

私の子らよ、あなたたちの誰も完全という終わりではない
46億年生きても、私にはまだ神のことはよくわからないが
あなたたちの「神」も、自分で感じた部分にすぎないのではないかい?
あなたたちの成長に応じて「神」も育つ
凍らされては「神」もお働きになれないのではないのかい?

弟たちよ、怒りにかえて涙をこらえることはないよ
テロを命じたのがアラーでないことを一番わかってるのは
ほんとうはあなたたちなんだろう?
泣きなさい、大声で、大粒の涙流して
命捨てる覚悟を決めたあなたたちにとっては
泣くことは殺すことより勇気がいるにちがいない
でも素直なざんげの涙は、
あなたたちの「アラー」の氷を溶かし
アラーの生きた光をとりもどせる

兄たちよ、彼らがざんげの涙を流したら
おおきな愛で受けとめてやれるかい?
もしかしてあなたたちの「正義」も凍ってはいないかい?
欲の後ろめたさを浮びあがらせまいと
凍らせてしまいこんでいるのではないかい?

氷の刃は解かそうではないか
武器を捨て、はだかで取っ組み合ってはどうか?
お互いの体温を感じながら、いいたい放題叫びあってごらんよ
あなたたちが兄弟だってことがきっとわかるよ

神にご意志があるとすれば、
それは常に「新しい調和」を求めている
46億年生きつづけてきた母の体験からの実感
いまは、ばらばらに育ってきた家族が急激に出会い
物差しの違うあいだできしみあっている
過去にはけっしてなかった
私の子どもたち「全体」がかかわりあう世界
その世界の「新しい調和」をみんなで築けるかどうか
おおきな犠牲の血を流して、試金石となる機会がつくられた

「ジハード」とは、「神のために武器を取って戦うこと」ではなく
もとは「己にうち克ち、調和へ懸命に努力すること」の意味ではな
かったかい?
アラーのためのジハードとは、そういうことだと私は思うよ
兄弟姉妹が手を取り合って「新しい調和の世界」へと
ジハードに励んでくれたらどんなにいいいだろう
意志というのはね、みんなひとりひとりの大切なもの
無理やり「意志」を押し付ける「神」なんて神ではないんだよ

それぞれが大切にするさまざまな意志が集ってかかわりあうとき
神はうれしそうにお笑いになるかもしれないね
そこにはどんな花が咲くだろうね
それを見もしないうちから「終わり」をもたらさないでおくれよ
あなたたちの世界はこれからなんだよ、
こどもたち

- by Yoshiko McFarland -

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